2012年3月31日土曜日

その向こうには

その向こうには

吉本隆明氏が亡くなった。今では廃(すた)れたが「疎外(そがい)」という言葉が盛んに飛び交っていた頃のことだ「その向こうには何かがある」と彼の『共同幻想論』を読んだことがある。散々、意味ありげなイメージでもって連れ回され、さいごに「国家は消滅する(これは記億で書いている)」と結ばれ「ヘーッ」と感心して、それ以後彼の書くものは敬遠してきた。大新聞各社が「追悼」の記事を盛んに載せていたけれど、どれも「ピンボケ」だった。都合のいい時に「つごうのいいコメント」をもらうだけの相手で、本当に彼の書いたものを読んだ記者はいなかったのではないか。
「いいお父さんだった」。とは、彼の娘、吉本ばなな氏の追悼であるらしい。そうだったのだろう。ヒトは食うためには何でもしなければならない時がある、たとえそれが衒学であったとしても。「いいお父さんだった」頑張って子供を育てたそれでいいじゃないか。
思想家であれ、百姓であれ、「これ」と思った道具で、「これは」と思う土地を耕してみる他に、どんな生き方もありはしないのだ。彼は彼の道具で彼の土地を耕した。作物は育たなかったが。それでいい。

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