2009年11月4日水曜日

言葉を集めて つづく

・ 「ドヒンギ」


メモには「囲炉裏(いろり)のまわりを囲っている木組み」とある。つれあいの故郷に行って(彼女にしてみれば帰って)つれあいの叔父から聞いた言葉だ。酒席だった。ドブロクの発酵が過ぎて、酸っぱい、でも飲みたい、飲んでそのあまりの酸味に「ドヒンギを掴んで、耐える」という話だった。叔父さんはそこには存在しない囲炉裏のドヒンギを鷲掴みにして、小刻みに揺すってみせた。
中国山地のヒトは「我慢」とか「辛抱」とかを生活信条とする向きがある。酒においてもをや、である。

調べてみれば、『ほんにのうや』の逆引き方言に有るのみだった。「いろりばた」の項に「ユリー、ユルリ、ユリーバタ、」そして「ドインギ」。私がこの言葉に出会ったのはこれが最初であった。そして最後であろう。もう実用の囲炉裏は見ないから。
「ドヒンギ」の叔父は代掻き作業の途中にトラクタの下敷きになって亡くなった。もう10年になるか。当時、調べてみたら、この県で、年に10名が農作業中の機械事故で死んでいた、全国にすれば×50であるかと、思ったことだ。百姓はそんなにのどかな仕事でもないのである。

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